仙台高等裁判所 事件番号不詳 決定
主文
原決定を取消す。
山形簡易裁判所が昭和二十三年一月十九日申立人に対して言渡した裁判の刑の執行は之を許さない。
本件抗告の理由は、抗告人に対する本件裁判の執行の許すべからざることは申立人が山形簡易裁判所に提出した異議申立理
理由
由中に詳述したところであるから茲に之を引用する。惟うに刑の執行指揮に関し具備することを要件とせる判決書又は其の内容を証明する判決謄本又は抄本が天災其の他異常な事変の為に滅失したるときは其の添付なきも適法なるが如き見地の下に山形簡易裁判所の本件に関する決定を取消されたる原裁判は全く法律の解釈を誤りたるものと確信する。尚詳細なる抗告理由は追て提出致しますというにある。
記録に徴すると、抗告人は昭和二十三年二月十九日山形簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年に処する旨の判決を受け、同月二十一日控訴の申立をしたが、同年八月六日右控訴を取下げ、ここに右判決は確定したのであるが、右事件の訴訟記録全部は同年二月二十日山形裁判所庁舎の火災によつて焼失し、之がため検事は右判決による刑の執行を指揮するに当り判決書又は判決を記録した調書の謄本又は抄本を添附することを得ざるに至つたものであるところ、山形地方検察庁検察官は抗告人に対し、右刑の執行の為昭和二十四年一月十日午前九時同庁に出頭すべき旨の召喚をし、之に対し、抗告人は刑の執行指揮書に裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添付しないものである以上適法な刑の執行指揮をなし得ざるものであるとの理由の下に、本件異議の申立に及んだものである。
按ずるに、旧刑事訴訟法第五百三十六条が刑の執行を指揮するには、その指揮書に裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添附すべきことを規定している趣旨は、新憲法の下に、少くとも自由刑の執行に関する限りにおいては、単に刑の執行に当り過誤なからしむべく万全を期するがためのみのものではなく、その刑を執行する権能が、同条記載の書類によつて証明せらるることを要件とする旨を規定したものと解するのを相当とする。けだし憲法第三一条は、その他の種々な事項と共に、刑の執行についても、それが法律によつて定められた、その刑に妥当する適正な手続によるべきことを保障しているものと解されるのであるが、逮捕、抑留及拘禁に関して憲法第三三条第三四条が保障している要件を考 し、自由刑の執行には逮捕抑留及び拘禁以上の厳格な手続が要請されることを考えるときは、旧刑事訴訟法第五百三十六条の刑の執行指揮の方式は、少くとも自由刑の執行に関する限り、之を緩和して解することを得ないというべきだからである。果して然らば本件は刑の執行指揮をなし得ない場合であり、抗告人の異議申立が理由があり、之を棄却した原決定は失当である。
よつて旧刑事訴訟法第四百六十六条第二項により、原決定を取消した上更に裁判をなすこととし、主文の通り決定する。(昭和二四年一〇月一六日仙台高等裁判所第一刑事部)